ピアノの440Hzの1オクターブ上が880Hzにならない理由
調律の際にお渡ししている調律グラフを見て『おや?』と思われた方もいらっしゃると思います。高音部に行くほど高くなり、低音部に行くほど低くなっていますね。これは計算上のオクターブよりも少し広くなる『インハーモニシティ』と呼ばれる弦楽器にみられる現象で、ピアノのような弦の硬度が高く張力も大きい楽器は特に影響します。
なせこのような現象が起こるのでしょう。
仮に440hz(ヘルツ)『真ん中のラ』のピアノ線の長さを50cmだったとしましょう。440hzということは、この50cmの弦が1秒間に440回振動するという事ですね。実はこの時、50cmの弦が大きく振動しながらその半分の25cmの部分でも振動しているのです(2倍の880回/秒)。この25cmの振動こそが1オクターブ上の音になる訳です。すなわち、A4(真ん中のラ)の音の中にA5(高い方のラ)の音が含まれているという事です。この含まれている音の事を倍音と呼びます(実際には倍音は1オクターブ上の音だけではなく沢山の音が含まれています)。調律師はA4に含まれるこの25cm部分(倍音)の音を聞き取り、その音に実際のオクターブ上のA5が綺麗に合うように調節している訳です。で、50cmが440hzならば半分の長さの25cmは2倍の880hzと、計算上ではなる訳です。
ところが実際にはピアノ線は非常に硬い鋼鉄で出来ていますので、下の図の『a』のようなほとんど振動しない部分が生じてしまい、実際に振動する部分は計算上の50cmや25cmよりも短くなってしまいます。なのでA5を測定器などを使い880hzに合わせてしまうと50cmの弦(440hz)に含まれる25cmの振動部分とに差が出てしまい、A4とA5の2本を同時に鳴らすと音がズレて唸り濁りとして聞こえてしまいます。調律師は耳で聴いて、ズレが無くなるように調節している訳で、結果、振動部分が短い分、オクターブが美しく響く位置は計算上の880hzよりも少し高めになるのです。
また『a』の寸法は弦の長さや太さ、張力によって変わります。ピアノの器種が変われば値も変わります(全てのピアノの同じ音が同じ太さの弦を使っている訳ではありません)。また同じ器種でも、ハンマーの形状、打鍵の強さ、ピアノ線に付着した汚れやピアノ線自体に含まれる不純物によっても微妙に変化しますので、計算上の正しい音程が、必ずしも美しい音程というわけではないのです。
オクターブ上の音は基音の2倍音のうなりであわせているといってもいいのかな。オクターブ下の音も2倍音に合わせてうなりで調律している、しかうしてS字カーブが形成される。ピアノ弦が棒の性質を持つからでしょうか。というのも付け加えてよいのではないでしょうか。
仰るとおりです。貴重なご提案ありがとうございます。