見越し調律のCyberTuner裏技的な
ピアノに限らず弦楽器の特性として、狂いが大きければ大きいほど調律した際に元の狂った位置へ戻ろうとする力が大きく働きます。なので年数空きのピアノ調律を請け負った際、いきなり正しい音に調律しても、また元に戻ろうとする力が働いて、あっという間に狂ってしまいます。
そこで調律師は精密調律の前に、その元に戻ろうとする分をあらかじめ予想して正しい音よりもオフセットしたピッチで調律するのですが、それを見越し調律(下律または慣らし調律と呼ぶことも)と言います。
見越し調律は調律師が耳で聞きながら短時間でサッと仕上げるのが通常ですが、短時間なので全体の張力を全体的に戻す程度で、個々の音の精度はそれほど高くありません。もちろんそれでも全く問題ないのですが、場合によっては個々の音の張力を安定させるために何度も施工しなければならないこともあり、余計な労力であったりピアノに負担をかけることにもなります。
CyberTunerなどの調律師専用ソフトの中には、それらを計算し個々の音の理想的なオフセット値を計算してくれる機能が搭載されていて、調律師への負担がかなり軽減されると言う嬉しい機能があるのですが、そもそも狂う量というのはピアノや弦の古さによっても変わってくるし、メーカーの違いなど個々の条件によって変わるのでビックリするくらいバッチリ決まる時もあれば、全然ダメな時もあります。
で、チューナーソフトの利点を活かして次のような見越し調律を私はやっています。経過時間を見ていただければこれが一連の流れであることと、元へ戻ろうとする力がいかに働いているかご理解いただけると思います。
CyberTunerには1音ごとサンプリングしてオフセット値を自動的に計算してくれる機能『Smart Tune』機能が搭載されているのですが、それは使わずに正常値をチェックする『Fine Tune』を使います。
下の画像がCyberTunerのFine Tuneメイン画面です。右上の矢印がピッチ、左下の矢印が時間の表示です。黄色のサークルが現在の音程を示しています。ピアノは7年ぶりの調律でA4が20セント以上低下した国産グランドピアノです。
A0〜B1までを440hzで、C2〜B2までを440.2hz、C3〜B3までを440.4hzで調律(割愛)
C4〜B4を440.6hzで合わせる前のA4の様子。20cents以上低下しています。黄色のサークルが真ん中へ来るように調整します。
C5〜B5を440.8hzで合わせます
C6〜B6を441hzで合わせます。
C7〜C8を441.2hzで合わせます。A7は測定外に低下していてサークルが見えません。同じ張力値が緩んでも高音に行くほど音程差が大きくなりますので、それを見越して多めにオフセットさせていきます。
見越し調律終了後にチューナーのピッチを440hzに戻して全体をチェックしてみると、先ほど440.6hzに調整したA4が約30分後にはもう440hzに下がっています。
A5だけ僅かに高めですが、他はほぼ理想的に下がりました。441.2hzまで上げたA7は5分で440hzに。
ここからさらに低下する可能性もあるので、しばらく時間を置いたり、強打鍵したりした後に精密調律に取り掛かります。
どれくらいオフセットさせるかは、狂い方やピアノの状態などを見て経験的に判断するのですが、CyberTunerのSmart Tune機能を使うより時間経過後も安定したピッチが得られるような気がします。
使っていなくても年1〜2回の定期調律を終われなく。